印影偽造、サービス残業、そしていきなり解雇の零細士業事務所

行政書士は街の法律家、と当人達は言うけれど
数年前にドラマ「カバチタレ!」が放映されたおかげで知名度が一気に向上した行政書士。役所に提出する書類を作成したり、内容証明郵便や契約書を作るのを仕事にしています。街の法律家を自称する行政書士の事務所はたいていがボス行政書士一人と事務員(行政書士法上は、事務員のことを補助者といいます)一人から数人の零細企業なので、ボス次第でいくらでもブラック企業になりうることは実際に働いていないとわからない事実です。
 
 

私が行政書士事務所の事務員になったわけ

私が地方都市のある行政書士事務所の事務員になったのは、資格取得を目指して勉強しながら給料がもらえ、仕事も経験できないかな、という今思えば甘い考え方があったからです。入った事務所はボスの行政書士が一人、事務員が私を含めて三人いる事務所で、田んぼや畑などの農地を住宅が建てられるようにする農地転用の申請のほか、測量の仕事もしている事務所でした。地方都市ではよくある、一般的な事務所です。
 

入った当日、早くもサービス残業「お前も押せよホラ」

その事務所がブラックかもしれない、ということは入社の当日にわかりました。労働契約書を作らないくらいなら普通にどんな事務所でもあることです。終業時刻になった午後6時に先輩がおもむろに席を立ち、タイムカードの機械に向かいます。
その先輩事務員はさっさと
自分のカードを打刻して、また何事もなかったように仕事を再開するのです。
なんだかわからないままそれを見ていると、先輩が「お前も早く押せよホラ」とタイムカードをあごでしゃくって指しました。言われるままに終業時刻を打刻して、そのまま仕事を続けるのですが誰も帰りません。というより、仕事がたくさんありすぎるので帰れないのです。そのまま3時間ほど残業して午後9時過ぎに退勤する際、先輩から「ここはタイムカードの時間にしたがって残業代を払うから、残業があまりないようにしておけよ」とありがたい指導がありました。「あまり正確に残業時間をつけると、首になるからな」と笑って言ったその先輩だけが勤続9年で、あとの事務員は入社して1年未満であることが納得できました。
このサービス残業は1日3~5時間程度、私が事務所をクビにされるまで続いたのです。ちなみにボス行政書士と奥さんの出勤は事務員より一時間以上遅く、夕方前には二人とも退勤されるのです。経営者っていいな、と思いました。
 

辛い、というより危ない仕事「印影偽造」

行政書士の事務所ですので、体が辛いとかけがをするような仕事はありません。別の意味で危ない仕事をやらせてもらえました。それが、印影の偽造です。行政書士はクライアントから依頼を受けて書類を作り、役所に出す、というのが仕事ですので、作った書類にクライアントからハンコをもらう必要が本当はあります。
ボス行政書士は面倒くさがりで、この作業が大嫌いなのです。どうせ事務員にサービス残業させるなら、ハンコぐらいもらいに行かせてくれればいいのですが。
ではどうするかというと、この事務所にはいろいろな名字の認印が数百種類、それこそ文房具屋さん並に置いてあるのでこれを勝手に押してしまいます。それくらいならまだいい、と思えるのは私がこの業界に染まってしまったからでしょう。
実印のように勝手に押せるハンコがない場合、印鑑証明書やすでに押してある印影から偽造して印鑑を作ってしまうのです。
手法としてはスキャナを使ったデジタルなものと、油紙などをつかってすでに押した印影から朱肉を転写し、別に捺印がほしいところに転写するもの、エッチング(薬品による腐食)の技術を用いて印鑑まるごと作ってしまう方法があり、専用の機械までおいてありました。
当然ながらこの作業、印鑑を印影から作ってしまって勝手に押したら印影の偽造に他なりません。これって刑法犯だよね、と先輩事務員は笑って言ってくれるのですが、堂々たる犯罪を毎月繰り返さないと仕事にならないのは泣けてきました。
私がそんなブラック事務所をクビになったのは、ある住宅の申請をめぐって工事の内容をごまかそう、という打ち合わせにボス行政書士と同席していたとき、まちがって「そうした申請だとごまかしになりますが」と言ってしまったためです。
申請を通さなければ仕事にならないとはいえ、零細な士業の事務所の事務員なんて使い捨てだ、と痛感させられました。

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